田中 誠一の店を開いたのは2019年の春、東京・世田谷の住宅街の一角でした。それまでは京都の懐石料理店で七年間働き、その後は都内のビストロで二年ほど料理長を務めていました。懐石で学んだのは「引き算の美学」で、ビストロで学んだのは「気取らずに食べてもらうこと」でした。その二つを合わせたら、こういう店になりました。名前の通り、シンプルに、ちゃんとおいしいものを出す食堂です。
最初の一年は正直うまくいきませんでした。ランチのお客さんが一日に三〜四人という日もありました。転機は2020年の秋、近所の農家・佐藤農園さんと直接取引を始めたことです。その週に届いた無農薬の小松菜をおひたしにして出したら、「この小松菜どこのですか」と聞いてくれるお客さんが現れました。産地を書いてメニューに載せるようにしたのはその頃からです。少しずつ、食材の話をしに来てくれる人が増えていきました。
田中 誠一都の懐石料理店「木乃芽」で七年間修業した後、東京・恵比寿のビストロ「ル・コワン」で料理長を二年務めた。2019年春、世田谷の住宅街に「Cook Simple Meal」を開業。懐石で身につけた出汁の技術と、ビストロで覚えた肩の力を抜いた料理の出し方を組み合わせた食堂スタイルが、地元の常連客に支持されている。休日は近所の佐藤農園で農作業を手伝うことがあり、「土を触ると、野菜の扱い方が変わる」が口癖。